認知行動療法(CBT)について
認知行動療法は、私たちの「考え方」「行動」「感情」「身体の反応」が互いに影響し合っていることに注目して、心の健康を改善する方法です。
自分の考え方と行動に気づき、新しいやり方を試してみることで、感情や身体の状態も良い方向に変わっていく—これが認知行動療法の基本的な考え方です。
「認知(Cognitive)」ってなに?

「認知」とは、物事の受け取り方や考え方のことです。同じ出来事でも、人によって受け取り方は違います。
例えば:
友達からのLINEの返信が遅いとき
- 「忙しいんだな」と思う人
- 「私のこと嫌いになったかも」と心配する人
- 「無視された!」と怒る人
私たちは無意識のうちに物事を解釈しています。この「考え方のクセ」が感情や行動に大きく影響するのです。
よくある考え方のクセ
- 白黒思考:「完璧にできないなら、全部失敗だ」
- 心のフィルター:良いことは無視して悪いことばかり注目する
- 心の読みすぎ:「あの人は絶対私のことを嫌っている」と証拠なしに決めつける
- すべき思考:「私は〜すべきだ」「〜ねばならない」と自分を追い込む
- 拡大解釈と過小評価:失敗は大げさに、成功は小さく考える
認知行動療法では、このような考え方のクセを見つけ、より現実的でバランスの取れた考え方を試してみます。
行動(Behavioural)」について

「行動」とは、私たちが実際に行うことすべてを指します。話す、動く、表情を作る、避ける、といったことです。行動は目に見えやすく、比較的変えやすい特徴があります。
私たちの行動には、次のような特徴があります。
- 行動には必ず「メリット」がある
- 心地よい結果(メリット)をもたらす行動は増える(強化される)
- 一時的に楽になる行動でも、長い目で見ると問題を悪化させることもある(短期的にはメリットがあるが、長期的にはデメリットの方が多い)
例えば:
不安を感じたとき、大事な場面を避けると、一時的に不安は減ります。でも、「避ける」という行動が増えると、挑戦する機会が減り、自信も減っていきます。
行動を変えるアプローチ
認知行動療法では、少しずつ新しい行動パターンを作っていきます。
- 行動活性化:楽しみや達成感を感じられる活動を少しずつ増やす
- 段階的練習:苦手なことを小さなステップに分けて、少しずつ挑戦する
- 行動実験:「〜したら失敗する」という予想を、実際に行動して確かめる
「感情(Emotion)」について

「感情」とは、喜び、悲しみ、怒り、不安、恐怖など、私たちが感じる心の動きです。感情そのものに良い悪いはなく、大切なサインとなります。
感情の特徴:
- 感情は「良い・悪い」ではなく、すべて大切なもの
- 感情は波のように上下するもの(ずっと続くわけではない)
- 感情は認知(考え方)と行動に大きく影響される
- 感情に名前をつけて認識するだけでも、感情の強さは和らぐことがある
認知行動療法では、感情を抑えるのではなく、感情を認めた上で、それにどう対応するかを考えます。
「身体(Embodiment)」について

「身体」とは、私たちの体の反応や状態のことです。心と体はつながっていて、感情は体にも表れます。
- 不安→心拍数上昇、呼吸が速くなる、筋肉の緊張
- 落ち込み→体がだるい、動きが遅くなる、睡眠の問題
- 怒り→体が熱くなる、筋肉の緊張、呼吸が速くなる
身体の反応は認知や感情にも影響します。
例えば:
息が速くなると「パニックになる」と思い、さらに不安が高まることがあります。
身体へのアプローチ
認知行動療法では、体の反応をコントロールする方法も学びます。
- リラクセーション法:筋肉の緊張をほぐす方法
- 呼吸法:ゆっくりとした深い呼吸で落ち着く方法
- マインドフルネス:今この瞬間の体の感覚に注意を向ける方法
認知行動療法(CBT)のしくみ
認知行動療法は、次のような仕組みで効果を発揮します.
1. ABC分析で状況を整理する

- A(Activating Event):出来事・状況
- B(Belief):こころのつぶやき(認知)
- C(Consequence):結果(感情・行動・身体反応)
2. いろいろな考え方や行動に気づき、試してみる
認知行動療法では、さまざまな方法で考え方や行動パターンに試してみます
- 考え方のクセに気づき、別の見方も考えてみる
- 避けていたことに少しずつ挑戦してみる
- 不安や落ち込みを和らげるためのスキルを身につける
- 身体のリラックス法を練習する
認知行動療法(CBT)はどんなときに役立つ?
認知行動療法は様々な心の問題に効果があることが科学的に証明されています。
- 不安や恐怖(社交不安、パニック発作、強迫症など)
- 落ち込みや意欲低下(うつ病など)
- ストレス関連の問題
- 睡眠の問題
- 自信や自己評価の問題
- 人間関係の悩み
- 怒りのコントロール
認知行動療法(CBT)の特徴
- 実践的:日常生活で使えるスキルを学びます
- 現在と未来に焦点:過去よりも、今と未来をより良くすることに注目します
- 協力関係:カウンセラーとクライアントが協力して進めます
- 短期間:比較的短期間(数か月程度)で効果が表れることが多いです
- 自分でできるようになる:学んだスキルを自分で継続して使えるようになります
- 科学的:研究によって効果が確かめられています
認知行動療法は、苦しいときの「心の道具箱」を増やしていくようなものです。一度身につければ、これからの人生でずっと使える大切なスキルになります。「考え方」「行動」「感情」「身体」のつながりを理解し、自分自身の心と上手に付き合っていく力を育てていきましょう。